2013年5月18日土曜日

2013/5/25(土)第21回リプロダクション研究会共催


2013年5月25日(土)の第21回リプロダクション研究会を「ハイリスク」な女の声をとどける会が共催します。ぜひご参加ください。参加申し込みは下記のリプロダクション研究会「問い合わせ」ページよりお願いいたします。

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第21回リプロダクション研究会 
「人工妊娠中絶をめぐる国家賠償請求裁判で何を問いたいか-原告に聞く」

 足立さんは2010年、エコー検査で、生まれても生存が極めて困難な臓器障害が胎児(お腹の赤ちゃん)にあることがわかった。医師から、お腹の中で亡くなるまで待つ選択もあるが、自分の経験上この子は長く生きられないので、あきらめて、いまいる子やこれからの子に力を注いだ方がいいかもしれないとの助言を受けたことや、当時35歳直前で帝王切開歴もあったことから妊娠週数が進んでから処置(胎内死亡掻爬術や胎内死亡による死産)をすると母胎に負担がかかると考えたこともあり、悩んだ末に、妊娠18週で人工妊娠中絶の手術を受けた。

 死産証書に書かれていたのは「母体保護法による人工死産」「経済的理由」だった。経済的理由ではなく胎児の致死的な異常によって人工死産したのに、堕胎罪の適用を免れるために母体保護法が適用されていることを知った足立さんは、実態に合っていないのにそれを放置しているのは国の怠慢であるとして2012年に国家賠償請求訴訟を提起した。 訴訟内容は、人工妊娠中絶に胎児条項を入れるべきであるという主旨ではない。胎児が亡くなるまでお腹にいて掻爬・死産すれば保険適用であるのに、人工死産であれば保険適用にならないで自費である、その保険制度を昭和27年当時から維持しているのは厚生労働省(厚生省)の怠慢であるから、支払うことになった医療費等や慰謝料を合わせた32万9千円を賠償請求する、及び、空文化し時代に合わない堕胎罪を存置しているのは国会の怠慢であるから、慰謝料10万円を賠償請求する、等といったものである。

 足立さんはなぜ国家賠償請求訴訟を提起したのか。裁判はどのような経過だったか。当事者も社会も出生前診断による選択的中絶にどのように向かい合うか問われている今、一人で裁判を起こし、先日東京地方裁判所の結審を終えたばかりの足立さんの話をじっくり聞き、ディスカッションしたい。

参考『AERA』2012年12月31日-2013年1月7日 vol.26(1)「中絶は犯罪ですか?堕胎罪という矛盾」(本裁判に関する記事)


【日時】 2013年5月25日(土) 11時~13時30分 (開場 10時50分)
途中休憩で昼食を召し上がる場合はご持参下さい

【場所】 大阪経済法科大学東京麻布台セミナーハウス 2F大会議室
(日比谷線神谷町駅徒歩3分、大江戸線の赤羽橋、浅草線・大江戸線の大門駅等)
http://www.keiho-u.ac.jp/research/asia-pacific/access.html
        
スピーカー:足立恵佳さん(原告、弁護士)
聞き手:白井千晶(リプロダクション研究会代表)

資料代:1000円 (要事前申込み)

申込み方法

「問い合わせ」ページより、「第21回リプロダクション研究会参加申込み」とご記入の上、①氏名 ②所属・肩書き等 ③メールアドレスを記載して下さい。(5月23日締切)

共催 「ハイリスク」な女の声をとどける会

「血液検査で子どもの障がいがわかるって、それって、いいこと? パート3」で報告

2013年4月29日に大阪で行われた「生殖医療と差別―紙芝居プロジェクト(旧優生思想を問うネットワーク)」主催の集会で報告をしました。会の設立経緯、新型出生前診断のこと、パブコメのこと・・などをお話しました。当日は約40名の参加でした。集会の案内は以下です。


「血液検査で子どもの障がいがわかるって、それって、いいこと? パート3」

今春、妊婦の血液検査で赤ちゃんの障がいの有無を調べる新しい出生前診断が、全国
で開始されました。当面、高齢妊娠等の「ハイリスク」妊婦を対象に行われ、これら
の検査は、彼女たちの要望に応えるものであり、「安心」をもたらすものだとされて
います。
しかし、本当にそうでしょうか?自らの身体の大きな変化に加えて、様々な不安を抱
えている妊婦に、さらなる過重な負担を強いるだけなのではないでしょうか。元気に
楽しく暮らしている障がい者やその家族がたくさんおられることも知らされず、すべ
ての子どもを生み育てるための社会的支援が不十分な中で、「赤ちゃんに障がいが
あったらどうしよう」と“恐怖”ばかりをふくらませることにはならないでしょう
か。
今回は、「ハイリスク」と名指された女性たちの立場から出生前診断の問題を考え、
自分達が真に必要としているものは何かを発信している“「ハイリスク」な女の声を
とどける会”の皆さんに話を伺います。
妊娠中の女性(カップル)、これから産むかもしれない人、かつて妊婦だった人、産
まない/産めない人、子育て中の人、障がいとともに暮らす人、出生前診断のあり方
にモノ申したい人、みんなで話し合ってみませんか。

テーマ:新型出生前検査について考える―「ハイリスク」な女の声をとどけたい
講師:二階堂祐子氏(「ハイリスク」な女の声をとどける会)
日時:2013年4月29日(祝・月) 午後1時半~午後4時半 
会場:クレオ大阪中央(大阪市立男女共同参画センター中央館) 研修室1
    大阪市天王寺区上汐5-6-25  TEL 06-6770-7200
(地下鉄谷町線四天王寺前夕陽ヶ丘駅1・2番出口から徒歩約3分)
 http://www.creo-osaka.or.jp/chuou/access.html
主催/連絡先:生殖医療と差別―紙芝居プロジェクト(旧優生思想を問うネットワー
ク)
   大阪市浪速区日本橋5-15-2-110 ここ・からサロン内 TEL 06-6646-3883
   E-mail:kamisibai.cat@orange.zero.jp
協賛:京都ダウン症児を育てる親の会(トライアングル)
資料代:500円
*手話通訳の用意あります。

2013年2月3日日曜日

「新しい出生前検査を語ろう」報告書


「『ハイリスク』な女の声をとどける会」のメンバーである重原が、『We』182号(2月・3月号)の特集「地域でゆるやかに支えあう」に投稿したレポートを以下に転載します。
フェミックスの通販最新号のブログも合わせてご覧下さい
なお、文章の分かりやすさのため、あえて文体は「出生前診断はよく知らないけれど、興味があって参加した学生」の体をとっております。
あしからずご了承ください。


「新しい出生前検査を語ろう」報告書

「精度99パーセント、流産の危険なし」。そんな売り文句を下げた新しい出生前検査が喧伝されはじめたのは、去年の9月頃だった。ここまで報道するかというほど、マスメディアで連日取り上げられていたのが私には印象的だった。そして今までとは何か違うと決定的に思ったのは、私の周りの20代前半女子の間で出生前診断が話題になったとき。彼女たちが「やっぱり検査は受けた方がいいよね~」などと言いながら、ananの「妊活特集」を読んでいる光景を目の当たりにしたとき、モヤモヤとした感情が沸き上がってきた。新しい出生前検査は何を明らかにして、何を切り捨てているのか。1223日に文京シビックホールで開催された「新しい出生前検査を語ろう」に参加してきた。

●検査で「すべての異常」が分かるわけではない
まず、「『ハイリスク』な女の声をとどける会」のAさんは、看護師であり高齢妊娠だったご自身の経験をお話しくださった。もともと看護師は職業柄夜勤が多く、放射線や毒物に曝露していることから、看護師の間では「看護師はハイリスク」と言われている。そのうえ、40代での妊娠であったことから周りからは「出生前検査を受けないの?」とよく聞かれていたそうだ。結局、検査を受けないことを選択して出産へ踏み切ったが、もしも障害のある子どもが生まれてたら「検査を受けていれば良かったのに」と言われたのだろうか?そういう煮え切らない思いから、「ハイリスク」の会の設立に到ったと言う。Aさんのお話で興味深かったのは、99パーセントというのは妊婦一般に当てはまる精度ではなく、ハイリスクではない妊婦にこの検査を行うと、精度は50パーセントくらいまで下がることがあること。そして染色体異常は新生児の先天異常のうちの25パーセントに過ぎず、その25パーセントのうち、新しい出生前診断で明らかになるのは13番、18番、21番のトリソミーという3つの染色体異常のみであるということ。新しい出生前検査に限らず、羊水検査なども既存の出生前検査はどれも一部の先天異常しか分からないそうだ。

出生前診断ですべての異常が明らかになるかのような印象を持っていた私には、それが大きな驚きだった。出生前検査がまるですべての異常が明らかになるかのような印象を持っていたけれど、たったの3つしか分からないのだ。なぜその3つばかりが取り上げられるの?という会場からの疑問に、Aさんは「その3つの染色体異常は、生きて生まれてこられる障害であるから」と答えていた。他にもダウン症(21番トリソミー)はどの年代の妊婦にも一定数出現するので、一定の需要が見込まれるという商業的な理由もあるだろうとのことだった。そんな理由で3つの異常は選ばれているのだ。

●「選択」の責任は妊婦にあるのか?
同じく「ハイリスク」の会のBさんはいま妊娠中であり、妊婦の立場から二つの話題提供をされた。一つは、高齢妊娠だから新しい出生前診断を受けたいという女性の立場である。妊娠した女性は、嫁であったり妻であったり娘であったり、複数の立場におかれることが多い。立場ごとに異なった人間関係があり、それぞれの思惑もある。そんな中で妊婦が下した判断はほんとうに「自己決定」と言えるのだろうかと。もう一つは、妊婦の経験や意見を抜きにした「安易な中絶」というトピックである。確かにメディアで新しい出生前検査が取り上げられている時には、必ずと言っていいほど「安易な中絶に繋がる危険性がある」という意見が付加されていた。しかし、たとえ結果的に中絶を選んだとしても、その経験が安易なものであるはずがない。中絶以外に選択肢が存在しなかった女性の苦しみを医療は看過しているのではないか。どんな子でも安心して産めるような、妊婦が安心して妊婦でいられる社会が必要であるとBさんは結んだ。

●技術を使うルールづくりに当事者が参画できていない
最後のお話は、1982年に優生保護法改悪を阻止するために結成されたSOSHIREN女のからだからに所属するCさん。Cさんが疑問を呈していたのは、今回の新しい出生前検査では、女性や障害者といったその技術の当事者となる人々が、使用のルールを決める過程に参画できないということだった。また、障害があると分かった上で産むという決定を出した妊婦への支援が不可欠だとCさんは指摘した。胎児の障害の有無が分かる検査だけは存在するのに、依然として障害児を産むのが困難である状況があるのは、中絶への誘導になってしまうだろう。
その後のディスカッションは16人の参加者の方がみな堰を切ったように話し出した。育児を親のみが担うことになってしまっている現状、ただ特定の障害のみをターゲットとしている検査への不信感、さまざまな人々がさまざまな障害を抱えながら元気に生きていることが医療現場では知らされないことへの戸惑い…。参加者のお一人であった脳性まひの方の、「勉強ができる人もいるし、絵を描くのが好きな人もいるし、障害があってもなくてもいろいろな人がいる。私は障害を持っているけれど、悪くない人生だよとみんなに伝えたい」という発言に、みなウンウンと頷いていた。

●こんな風に生きていけるというピアサポートを
今回の新しい出生前検査では、遺伝性疾患の当事者や家族のサポートを行う、遺伝カウンセリングシステムが整備されることが望まれているそうだ。日本産科婦人科学会が1215日に出した指針案にも、検査が行える病院は「認定遺伝カウンセラーまたは遺伝看護専門職が在籍していることが望ましい」という文言が入っている。しかしながら、まだ実際に障害を持った方からのピアサポートが受けられるような状況は整っていない。もちろん、専門家の方々から検査の内容だとか、染色体異常の仕組みについて話を聞くことも必要な事なのだろう。けれども胎児に障害がある可能性があると告げられた親御さんが一番不安に思うのは、子どもがきちんと生きていけるのか、産まれてくる子どもがどんなことが出来てどんなことが出来ないのか、どういう困難があるのか、という実際の生活に関する事ではないだろうか。「健常者」の視点で考えれば、大変なことはたくさんあるのかもしれない。けれども、同じ障害を持った方からお話を聞けたり、毎日どんな生活をしていて、どんなヘルプが必要なのかを見る機会があれば、親御さんの不安はどれほど軽減されるだろう。だが障害のある当事者からのピアサポートが受けられるような状況は整っていない。
今後は染色体異常だけではなく、遺伝子の異常が分かるようになる日も近いと医療に従事している参加者の方が話されていた。それにともなって出生前検査が広まっていくのは避けられない未来かもしれない。だからこそ、私たちが大きな声を上げて、医療現場に疑問を伝えていく必要があるだろう。遺伝カウンセリングの内容の検証や、ピアサポートシステムの導入要請、当事者を含めた話し合いの要求…。できることはたくさんある。そう強く思った会であった。

※「新型出生前検査」とは、母体の血液中に存在する「DNA断片」の量を測定して、赤ちゃんの染色体の数が多いか少ないかを推測するもので、ある程度の確率で推定できるのは染色体異常のうち3種類ですが、この検査だけで確定診断にはなりません。詳しくは「ハイリスク」な女の声をとどける会のブログや、SOSHIREN女のからだからのサイト(http://www.soshiren.org/)もご参照ください。(編集部)

2013年1月23日水曜日

「母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査」指針(案)に対する意見書(パブリックコメント)


日本産科婦人科学会御中

「母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査」指針(案)に対する意見書


平成25年1月21日

「ハイリスク」な女の声をとどける会
代表:二階堂祐子 渡部麻衣子
住所:東京都渋谷区桜丘町14-10 渋谷コープ211
アジア女性資料センター気付
E-mail: hrwomen2012@gmail.com

私たち、「ハイリスク」な女の声をとどける会は、日本産科婦人科学会母体血を用いた出生前遺伝学的検査に関する検討委員会において作成中である「母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査」指針(案)について、検査の対象となり得る妊婦の立場から、下記の通り意見を述べさせて頂きます。当該検査によって、妊娠期が妊婦にとってさらに不安且つ不快な時期となることのないよう、適切な指針の作成を切にお願いする次第です。


1 「Ⅲ 母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査の問題点」について

1−1 指針(案)では、項目III において、まず「妊婦が十分な認識を持たずに検査が行なわれる可能性がある」とし、妊婦の認識が不十分である可能性を指摘している。しかし、妊婦の認識が不足するとすれば、それは、当該検査の実施において十分且つ適切な情報提供が行なわれないためである。また、当該検査はたしかに技術的には「きわめて簡便に実施可能である」が、この検査が妊婦にとって「簡便」であることは決してない。先に提出した意見書でも述べたように、技術の簡便さの如何によらず、一方で胎児が命をつなぎ止めることを祈りながら、他方で胎児を失う可能性のある選択をするということは、妊婦にとって深刻なジレンマとなり得る。妊婦にとって出生前検査は「困難」な技術である。したがって、指針においてまず強調すべきは、妊婦の認識不足ではなく、十分な情報提供が行なわれない可能性であると考える。

そこで、下記の通り本項の表現の修正を提案したい。具体的には、

① (1)「妊婦が十分な認識を持たずに検査が行われる可能性」を「~十分な情報の提供が行われずに検査が行われる可能性」へ、
3 行目「十分な認識を持たずに」を「十分な情報の提供が行われずに」へ、
4 行目「妊婦が動揺・混乱のうちに誤った判断をする可能性」を「妊婦に動揺・混乱を与え、十分な意思決定支援が行われない可能性」へと修正することを求めたい。

1−2 Ⅲ(2)についても、妊婦が「誤解」する可能性のみを強調するのではなく、むしろ誤解を生じさせる要因を検討すべきであると考える。たとえば、検査結果に対し「妊婦が誤解する可能性」があるのは、2012 8 月末からの報道の影響が大きいと思われる。妊婦はじめ社会に、検査結果に関する正確な情報が当初から与えられなかったことが「問題点」ではないか。本項の表現ではこの点が看過されている。また、弊会で行なった聞き取りでは、指針にある施設要件を満たさない医療機関においても、検査について助産師にたずねる妊婦が多く、説明に苦慮している様子がうかがえた。ある助産師は「まずは医療者の教育が必要」と述べている。
この検査についての情報を求める妊婦が、平等に、適切且つ十分な情報を得ることができるように、お産に関わる一般の医療者及び報道諸機関に対する教育の必要性を、指針においても強調して頂きたい。同時に、医療者やメディア等を通じて提供される不十分で偏った説明や投げかけられる言葉が、妊婦の決定に強く影響することを指針に明記し、医療者をはじめとする関係諸機関に周知頂きたい。


2 「Ⅳ母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査に対する基本的考え方」について

2−1 6 行目「妊婦がその意義、検査結果の解釈について十分な認識を持たずに検査を受ける可能性」という記述について、Ⅲと同じく表現の再考を検討いただきたい。
2−2 検査を提供する医療者には、具体的に以下に挙げる姿勢を求めたい。(以下に続く)
2−3 妊娠出産における選択肢や、障がいのある人の生活、また障がいのある人を含む家族の生活が多様であるということを、出生前検査を提供する医療者の共通の認識とするための取り組みを行なう事を求めたい。具体的には、

・出生前検査を前にした時の気持ちを、妊娠を経験した女性自身から聞く機会を持つこと。
(参考資料別添)
・胎児に異常がみつかった時の気持ちを経験した女性自身から聞く機会を持つこと。
・医学的な理由で胎児を失う女性の気持ちを聞く機会を持つこと。
・障がいのある人の様々な成長の仕方や、生活のあり方を学ぶ機会を定期的に持つこと。

こうした情報を医療従事者に提供することのできる当事者は既に存在している。それらの当事者と連携しながら、妊婦とその家族に対して適切な対応のできる医療者が出生前検査を提供するようなしくみを作って頂きたい。


3 「V-1 母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査を行う施設が備えるべき要件」について

3−1 「p4. において、「遺伝カウンセリングを必要とする妊婦に対して臨床遺伝学の知識を備えた専門医が遺伝カウンセリングを適切に行なう体制が整うまでは、母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査を我が国において広く一般産婦人科臨床に導入すべきではない。」としているが、この項において「適切な遺伝カウンセリング」として、どのようなものが想定されているのかが明確ではない。そこで、以下を要望する。

・2の2行目で言及されている遺伝カウンセリングに要する「十分な時間」とは、1回あたり何時間、何回以上のものを想定されているのか、明記して頂きたい。
・妊婦が検査について「十分に考慮する時間」を持つために必要となる日数の目安を明記し、検査前の遺伝カウンセリングを適切なタイミングで提供することの重要性を示して頂きたい。
・妊婦が検査について「十分に考慮する時間」を持つために、妊娠前から出生前検査について情報を求める女性とそのパートナーに対しても、V-3 で示された内容を含む「遺伝カウンセリング」あるいは「妊娠前相談」を提供する体制を整えることを明記して頂きたい。

3−2 3、5、6 では、確定診断後の妊娠継続に関わる妊婦の選択に対する支援について言及されているが、想定されている支援のあり方が不明瞭である。妊婦の心身の負担を考慮すれば、妊娠継続の有無に関わらず、検査を受けた施設で継続した支援を受けることが不可欠である。したがって、5 の「妊婦のその後の判断に対して支援し、適切なカウンセリングを継続できること」を、「妊婦のその後の判断に対して、心理的、身体的な支援を提供し、適切なカウンセリングを継続できること」と修正することを提案したい。

3−3 加えて、弊会の行なった聞き取りでも、生存不可能な児の妊娠継続をあきらめた妊婦に対するケアのあり方が病院によって大きくことなるために、困難な選択をした妊婦がさらなる心身の負担にさらされていることも示唆されている。妊娠継続の如何によらず、妊婦と胎児を最後まで尊重するケアを提供することを、医療者の責務として指針に明記して頂きたい。

3−4 Ⅴで医療従事者に求める姿勢として示されているように、実施施設には検査対象となっている疾患や障がいの当事者と連携した体制を求めたいため、6の項のあとに、7(新規)「医師、遺伝カウンセラー、助産師、看護師が検査の対象となっている当事者の団体(当事者の親のグループ等)による講習を受けるための運営体制を有すること」を追加して欲しい。具体的な取り組みの一例として、イギリスでは、ダウン症協会の働きかけにより、助産師を対象としたダウン症に関する1 日講習会が行なわれている。日本でも、出生前検査の提供に関わる全ての専門職が、対象となっている疾患や、妊娠継続に関する選択について、それぞれの当事者による講習を受けるようなプログラムを作ることを求めたい。


4 「V-2対象となる妊婦」について

4−1.本項の前提として、対象となる妊婦は、「検査の受検を希望し、かつ、従来より侵襲的検査の対象と想定されてきた者、具体的には、客観的理由の1から5にあてはまる者」であることを明示してほしい。
4−2.また、1の「高齢妊娠の者」(出産時に満35 歳を迎えている者)については、以下の説明を追記してほしい。すなわち、「高齢妊娠の者を対象とするのは検査技術の限界のためであり、高齢での妊娠出産に本質的な問題があることを意味するものではない」等。


5 「V-3 母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査を行う前に医師が妊婦およびその配偶者(事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む)、および場合によっては他の家族に説明し、理解を得るべきこと」について

5−1 (2)4の「これらの染色体異常や合併症の治療の可能性および支援的なケアの現状」中の「支援的なケアの現状」の内容が不明瞭なので、具体的に明示してほしい。例えば、「出生した子どもが成長する地域における療育や福祉の体制、当事者団体(当事者の親のグループ等)の活動の実際」等。


6 「Ⅵ 母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査に対する医師、検査会社の基本的姿勢」について

6−1 1に、検査について「医師が妊婦に積極的に知らせる必要はない」とあるが、これは医療従事者のどのような対応を指すのかが不明瞭である。検査についての情報を求めた妊婦には、「実施施設」であるか否かに関わらず、すべての施設に共通した適切な情報提供を求めたい。よって、「~積極的に知らせる必要はない」の後に、「ただし、妊婦から本検査の説明の要請があり、本検査を説明する場合にはV-3 にある内容に沿った配慮が成されるべきである。当該施設が実施施設でない場合に妊婦が受検に向けたさらなる情報を求めた際には、近隣の実施施設を紹介すること」等、説明の手順についての追記を求めたい。


7 指針(案)全体について

7−1 指針の対象は、日本産科婦人科学会の会員なのか、新しい出生前検査の提供に関わる全ての職種であるのかを明確にして頂きたい。
7−2 この指針は、新しい出生前検査を提供する施設の要件を定めているが、この要件に当てはまらない施設が、独自に企業と契約を結び検査を実施することを明確に禁じておらず、包括性に疑問がある。
7−3 指針を遵守する対象が明確でない中で、この指針の枠外で検査を実施する機関が現れた時の対応についても検討し、指針の中で明記して頂きたい。



参考資料:出生前検査を前にした時に妊婦は何を思うのか


弊会では、出生前検査に対する女性の気持ちを聞き取るために、横浜市内で女性の「産み」「育て」を支援するサロンの協力を得て、出産を経験した女性達の座談会を開催した。参加者は8名だった。聞き取りでは、新しい出生前検査について解説した後、出生前検査を前にした時に自分自身で考えるであろうことを、「受けるとしたらその理由」、「受けないとしたらその理由」、「考える過程で生じるであろう気持ち」を、それぞれお聞きした。以下では,主な意見を紹介する。

○ 受けるとしたら、その理由
・心構えとして
「異常があったら生まれてくるまでに、受容できるかも」
「妊娠中から心構えが出来る」
「少しでも胎児のことがわかれば、安心できるから(お腹の中にいると、全く見えないから)」
まれてからの支援のため」
「命を救うためなら病気を知りたい」
「生まれてからの治療方針など早めに手を尽くせる」

・家族のために
「夫や家族が強くのぞめば」
「親や親戚の声が気になる」

・子育ての不安のために
「経済的に・・・」
「保育園とかに入れられるのか心配」
「歳取ってからの子だから子供の将来が心配」
「うまく育てられるか心配・・・。」

○受けないとしたら、その理由
・生むために
「どんな子でも産んであげたい」
「それで産まなかったら一生自分を許せなくなりそう」
「どんな子でも育ててみたいから」
「何を持って不幸せかなんか分からない」

・検査の精度や確定診断のリスクのために
「診断のリスクを考えるとやりたくない」
「確定ではないから」
「検査の結果が本当に正しいかわからないから」
「そもそもなんのためなのか、わからない部分がある」
「『陽性』と出た時の周囲の反応にがっかりしたのに、健常児が生まれた場合、周囲との確執が無駄に生まれるから」

・検査後のプロセスのために
「知ったら悩んでしまいそう」
「中絶は辛い」
「中期中絶をする勇気がないから」

○検査を前にした時におこるであろう感情は
不安
・罪悪感
逃げたい
・疲れる
・後悔(「検査を受けた方が良かったかな?」)
周囲の反応への意識(「やっぱり高齢だからと言われる・・・。」「障害のある子が生まれたら「なんで検査を受けなかったの?」と責められそう・・・。」「偽善と言われるのでは?」)
(協力:umi のいえ)



2012年12月21日金曜日

「新型出生前検査」の精度について

「新型出生前検査」は、DNAを用いるために、確実なことがわかるような印象を受けますが、実は、見ているのはDNA断片の量であり、結果は確率的に示されます。


当初、この検査の精度は99%であると報道されました。

しかしこれは、胎児に染色体のトリソミーがある人の中で、この検査を用いた場合に、実際に「陽性」と判定される人の割合(専門用語では「感度」とも呼ばれます。)です。



検査を用いて「陽性」と判定される人の中で、胎児に染色体のトリソミーがある人の割合(ここでは、仮にこれを「実陽性的中率」と呼びます)は、検査を受ける集団の性質によって変化します。





なぜかと言うと、この検査には、胎児に染色体のトリソミーが「ない」人を「陽性」と判定してしまう確率(これを「偽陽性率」と言います。)が、0.1%あるからです。
(逆に、胎児に染色体のトリソミーが「ない」人を「陰性」と正しく判定する確率を「特異度」と言います。)

0.1%というと、なんだかとても少ないように感じますが、実はそうでもありません。

たとえば21番染色体では、全妊娠中の、胎児の染色体にトリソミーのない人と、トリソミーのある人の割合(発症率)が、約1000 : 1です。

ということは、「トリソミーのない」人の内で「陽性」となる人(「偽陽性」の人)と、「トリソミーのある人」の内で「陽性」となる人の割合は、

1000  ×  0.1%  :  1 × 99% = 1 : 0.99

で、「陽性」と判定される人の内では「偽陽性」の人の割合の方が、多くなるのです。

たとえばこの発症率が、300 : 1の集団の場合、

300 × 0.1% : 1 × 99% =  0.3 : 0.99

となり、「実陽性的中率」は、

0.99 ÷ (0.3 + 0.99) = 0.76 (76%)

となります。

このように、「トリソミーのない人」の割合が低くなる集団(=発症率の高い集団)ほど、「実陽性的中率」は高くなります。とはいえ、99%にはなりません。

ちなみに、「実陽性的中率」が、99%になるのは、発症率が10:1の時です。
21番染色体トリソミーの発症率は、年齢が上がる程高くなると言われていますが、45歳でも、発症率は22:1ですから、この検査の「実陽性的中率」が99%になる集団の実数はごく少数と言えます。

(「実陽性的中率」は、ここで便宜上使っている用語であり、専門用語ではりません。)

(文責:渡部麻衣子)