2012年12月21日金曜日

「新型出生前検査」の精度について

「新型出生前検査」は、DNAを用いるために、確実なことがわかるような印象を受けますが、実は、見ているのはDNA断片の量であり、結果は確率的に示されます。


当初、この検査の精度は99%であると報道されました。

しかしこれは、胎児に染色体のトリソミーがある人の中で、この検査を用いた場合に、実際に「陽性」と判定される人の割合(専門用語では「感度」とも呼ばれます。)です。



検査を用いて「陽性」と判定される人の中で、胎児に染色体のトリソミーがある人の割合(ここでは、仮にこれを「実陽性的中率」と呼びます)は、検査を受ける集団の性質によって変化します。





なぜかと言うと、この検査には、胎児に染色体のトリソミーが「ない」人を「陽性」と判定してしまう確率(これを「偽陽性率」と言います。)が、0.1%あるからです。
(逆に、胎児に染色体のトリソミーが「ない」人を「陰性」と正しく判定する確率を「特異度」と言います。)

0.1%というと、なんだかとても少ないように感じますが、実はそうでもありません。

たとえば21番染色体では、全妊娠中の、胎児の染色体にトリソミーのない人と、トリソミーのある人の割合(発症率)が、約1000 : 1です。

ということは、「トリソミーのない」人の内で「陽性」となる人(「偽陽性」の人)と、「トリソミーのある人」の内で「陽性」となる人の割合は、

1000  ×  0.1%  :  1 × 99% = 1 : 0.99

で、「陽性」と判定される人の内では「偽陽性」の人の割合の方が、多くなるのです。

たとえばこの発症率が、300 : 1の集団の場合、

300 × 0.1% : 1 × 99% =  0.3 : 0.99

となり、「実陽性的中率」は、

0.99 ÷ (0.3 + 0.99) = 0.76 (76%)

となります。

このように、「トリソミーのない人」の割合が低くなる集団(=発症率の高い集団)ほど、「実陽性的中率」は高くなります。とはいえ、99%にはなりません。

ちなみに、「実陽性的中率」が、99%になるのは、発症率が10:1の時です。
21番染色体トリソミーの発症率は、年齢が上がる程高くなると言われていますが、45歳でも、発症率は22:1ですから、この検査の「実陽性的中率」が99%になる集団の実数はごく少数と言えます。

(「実陽性的中率」は、ここで便宜上使っている用語であり、専門用語ではりません。)

(文責:渡部麻衣子)

 


2012年12月20日木曜日

新型出生前検査とは

1.      何が新しいの?



「新型出生前検査」とは、母体の血液中に存在する「DNA断片」の量を測定して、赤ちゃんの染色体の数の異常を調べる検査です。

母体の血液の中には、母親由来と胎児由来のDNAの断片が浮遊している、ということは以前から知られていましたが、これらを用いて染色体の数の異常を調べる出生前検査が日本で提供されるのは、これがはじめてになります。



2.      どんなことがわかるの?



今回提供が検討されている出生前検査でわかるのは、胎児の染色体の数の異常のうちでも、染色体21番トリソミー、18番トリソミー、13番トリソミーの三つの種類のものに限られます。

トリソミーとは、通常それぞれの番号につき2本ずつ存在する染色体が、3本ある状態のことです。

これらの状態は、全妊娠で3〜6%の割合で起こる先天性の異常の数%に過ぎません。















3.       誰が対象なの?


 この検査では、実際に胎児に染色体の数の異常があることを確実に知ることはできません。
 
(この検査の精度については、『「新型出生前検査」の精度について』をご参照下さい。)

そのため、現在日本産婦人科学会で作成が進められている指針案では、「本検査を行なう対象は客観的な理由を有する妊婦に限るべきである」としています。
 

客観的な理由として挙げられている条件は次の通りです。

・高齢妊娠の方(出産時に満35歳を迎えている方)

・胎児超音波検査で胎児に染色体の数の異常がある可能性が示唆された方

・胎児に染色体の数の異常が有る児を妊娠したことのある方

妊娠前期(12週まで)に受けた血清マーカー検査で、染色体の数の異常があること可能性を示唆された方

両親のいずれかに均衡型ロバートソン転座があって、胎児が13トリソミーまたは21トリソミーとなる可能性が示唆される方



4.   検査を受ける前に考えておくべきことは?

日本産婦人科学会の指針案では、この検査を受ける前に、主に以下のことを妊婦やその家族に伝えることを定めています。(わかり易くするために文言は書き換えています)


・検査の対象となる三つの染色体の数の異常は、あり得る先天性の異常のうちの数割に過ぎないこと。

・先天性の異常は、産まれてくる子が持っている特性のひとつに過ぎず、子どもはその他にも多くの特性を持って産まれてくること。

・先天性の異常の有る無しやその程度は、本人および家族が幸か不幸かということとは、ほとんど関係がないこと。

・対象となる三つの染色体の数の異常を持つ子どもに対する医療や支援的なケアの現状。

・確定診断のためには羊水検査や絨毛検査が必要なこと。


けれども、ここには書かれてありませんが、妊婦は「確定診断の結果陽性だった場合、自分はどうしたいと思っているのか、それはなぜか、そしてその選択は実際 にはどのような影響を自分自身に与えるものなのか」を、検査を受けようとする前に考えておく必要があるのではないでしょうか。

私たちは、染色体の数の異常のある子を暖かく迎えることもできる、あるいは染色体の数に異常のある人たちが生き生きと生きることも可能な社会に住んでいます。

 染色体の数の異常を持って生きる人たち、彼らを迎える家族を通して、胎児と自分たちの持つはずの可能性を予め知っておくことが、困難な選択をする助けとなるのではないでしょうか。

関係する家族の会はこちらです。
21番トリソミー:日本ダウン症協会
18番トリソミー:18トリソミーの会 
13番トリソミー:13トリソミーの子どもを支援する親の会 
  

そして何よりも、出生前検査は「高齢妊娠」だからと言って「受けた方がいい検査」ではありません。ましてや「必ず受けなくてはいけない検査」では決してありません。
自分自身が胎児とどのように過ごしたいのか、そして胎児をどのように迎えたいのかということを、じっくり考える時間が持てると良いなと思います。



5. どこで利用できるの?

現在、国内ではこの検査を提供するための体制作りが進められている状況です。 
日本産婦人科学会の指針案では、今後、この検査を提供する施設には、次の要件を満たすことが望ましいとされています。


・検査の対象について、それらの染色体の異常を持つ子の状態の経過や、支援の体制をよく知っている、経験豊富な常勤の産婦人科医がいること。

・検査の対象について、それらの染色体の異常を持つ子の状態の経過や、支援の体制をよく知っている、経験豊富な常勤の小児科医がいること。

・認定遺伝カウンセラーまたは遺伝看護専門職のいること。

・専門の外来があり、産婦人科医と小児科医(および認定遺伝カウンセラーまたは遺伝看護専門職)が協力して診療をしていること。

・診療にあたる産科医と小児科医のどちらかが、臨床遺伝専門医の資格を持っていること。

・検査の前後に十分な時間をとって行なう遺伝カウンセリングの体制があること。

・検査後の妊婦の選択を支援し経過をみ続けることが可能な施設であること。

・出生後に必要となる医療やケアを提供することができる、またはそうした施設と密に連携していること。


したがって限られた病院でのみ提供されることになると言えます。


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現在、日本産科婦人科学会では、作成中の指針への意見を公募しています。→こちらです。

この指針へのご意見、ご感想を、是非メールでお聞かせ下さい。
 

(文責:渡部麻衣子)

2012年12月11日火曜日

2012/12/23「新しい出生前検査について語ろう」開催

「新しい出生前検査について語ろう」

日時:12月23日(日)13:30~16:30
会場:文京シビックセンター 5階B会議(会場案内は末尾に)
資料代:500円

「『ハイリスク』な女の声をとどける会」と「SOSHIREN女(わたし)のからだから」が一緒に、この集まりを開きます。
新型出生前診断とも呼ばれる検査について、妊娠している人、これから妊娠するかもしれない人、妊娠したこともするつもりもない人、子育て中の人、障害をもつ人、医療にたずさわる人など、たくさんの立場から、何を考えどうしていきたいかを語る場にしたいと思います。

この検査について関心をおもちの方、まだ詳しく知らない方も、どうぞおこしください。 開催する二つの会が日本産科婦人科学会に出した意見書は、次のアドレスから、ご覧いただけます。
とどける会のブログ http://hrwomen2012.blogspot.jp/

ソシレンのホームページhttp://www.soshiren.org/


聴覚障害、視覚障害などで情報保障を必要とされる方は、事前にご相談ください。

会場と最寄りの交通機関は、車イスに対応しています。
集会に関するお問合せ先: SOSHIREN女(わたし)のからだから
          gogoあっとsoshiren.org (あっとを@に変えてください)

会場:文京シビックセンター
・住所 東京都文京区春日11621
・交通機関:東京メトロ 後楽園駅・丸の内線(4a5番出口)南北線(5番出口)徒歩1
      都営地下鉄春日駅三田線・大江戸線(文京シビックセンター連絡口)徒歩1
      JR総武線 水道橋駅(東口)徒歩9
・駐車場利用時間:8:15〜22:00
・地図 http://www.city.bunkyo.lg.jp/sosiki_busyo_shisetsukanri_shisetsu_civic.html



!!!大阪で同時開催!!!


「血液検査だけで子どもの『障がい』」がわかるって それっていいこと? わるいこと」


現在、「妊婦の採血だけで、胎児の障がいの有無が分かる」として、「母体血を用いた出生前遺伝学的検査」が導入されようとしています。

新たな出生前診断導入は、子どもをもとうとする女性やカップル、障がいや病とともに暮らす人たちに何をもたらすのか、その問題点について考えます。


日 時:2012年12月23日(日) 午後1時開場 1時半開催
場 所:大阪ドーンセンター(大阪府立男女共同参画 青少年センター)
    大阪市中央区大手前1-3-49
主 催:生殖医療と差別紙芝居プロジェクト協 賛:京都ダウン症児を育てる親の会(トライアングル)
資料代: 500円


〈プログラム〉

・講演:加納昭彦氏(読売新聞医療情報部記者)—出生前診断について考える--報道最前線から

・トーク:佐々木 和子氏(京都ダウン症児を育てる親の会・紙芝居プロジェクト)—子どもから学んだこと—

・トーク:「リアル@ダウン症」高平有香さん・木村真理さん・佐々木元治さん (京都ダウン症児を育てる親の会)

・みて!きいて!このままのわたしたち

・オカリナ演奏:オカリナクレヨン1/2

・ブレイクダンス:ニコクロ  

・最後は みんなで レッツダンス!


お問い合わせ:〒556-0005 大阪市浪速区日本橋5-15-2-110ここ・からサロン内
       TEL:06-6646-3883

2012年12月1日土曜日

母体血を用いた出生前遺伝学的検査の導入に当たっての意見書


母体血を用いた出生前遺伝学的検査の導入に当たっての意見書

「ハイリスク」な女の声をとどける会

E-mail: hrwomen2012_gmail.com(_はアットマーク)

 私たち、『「ハイリスク」な女の声をとどける会』は、「新しい出生前検査」の臨床研究の対象カテゴリーとして示された「35歳以上のハイリスク妊婦」をキーワードに、妊婦や元妊婦、これから産むかも知れない女性たちを中心メンバーとして発足したグループです。

  私たちは、「新しい出生前検査」が、妊婦やこれから産むかもしれない女性の声を聴くことなしに導入されようとしていることに、強い違和感を覚えるものです。この検査は、妊婦やこれから産むかもしれない女性のニーズに応え、安心をもたらす検査であると報道されることがあります。しかし、以下に示すように、妊婦がこの検査によって「安心」することはありません。そして、限られた障害のために妊娠継続をあきらめ胎児を失うこと自体が、私たち妊婦のニーズではありません。

なにが私たち妊婦にとっての安心であり、ニーズであるのか、この検査が導入された際に私たちが医療や社会的支援になにを望むのか、私たち妊婦自身の声として、意見を述べたく存じます。

 妊娠初期にわかることは、妊婦にとってジレンマとなり得ます。

「新しい出生前検査」は、妊娠初期での実施が可能なことがメリットのひとつとして挙げられます。しかし妊婦は早ければ4週目には妊娠の兆候を確認し、安定期と言われる12週までの約2か月間、自然流産の可能性を常に心に留めながら、胎児が生き延びることを願います。一方で胎児が命をつなぎ止めることを祈りながら、他方で胎児を失う可能性のある選択をするということが、妊婦にとって深刻なジレンマとなることに是非想いを寄せていただきたく存じます。

また妊娠初期は、さまざまな悪阻の症状に耐える時期でもあり、にもかかわらず、安定期前であるために周囲に妊娠の事実を伝えられない孤独な時期でもあります。このように母児ともに不安定な時期に検査を行うことは、妊婦にとっては必ずしもメリットではありません。

選択的中絶は妊婦の安心につながりません。

妊婦の年齢を問わず、先天異常のある児が生まれる割合は3~5%といわれています。羊水検査や「新しい出生前検査」でわかるとされる染色体異常は、そのうちの6~15%に過ぎません。先天異常の40~60%は「原因不明」といわれています。したがって、「新しい出生前検査」や羊水検査を行ったとしても、すべての先天異常を「排除」できるわけではありません。
 
 また、羊水検査後に人工妊娠中絶を行う場合は、すでに胎動を感じる妊娠中期に行うことになります。麻酔は使用せず、陣痛促進剤を使用して陣痛を誘発し、複数日かけて「出産する」という形で行われます。女性にとっては非常につらい経験です。選択的中絶を経験した女性は、その後も長期間にわたって苦悩を抱えるといわれます。

 このように「新しい出生前検査」は、妊婦や、これから産むかもしれない女性の安心につながる検査とは言えません。特に選択的中絶は、女性の心と身体に、後々まで続く大きな負担を強いるものです。それが望んだ妊娠であれば、人工妊娠中絶によって胎児を失うことを望む妊婦はいません。

臨床研究で提供される遺伝カウンセリングの内容を一般に公開して下さい。

今回はじまる臨床研究で提供される遺伝カウンセリングの内容に、私たちは大いに関心を寄せています。遺伝カウンセリングは、現在のところ、妊婦が検査を受けるか受けないかを選択するために必要となる情報と支援を受けることのできる唯一の場とされているからです。しかし一方で、遺伝カウンセリングの内容が医療の現場でのみ検討されていることに不安も抱いています。なぜなら、妊婦にとって、出生前検査は、医療の中だけに関係する事柄ではなく、その家族の生活、そ してそれをとりまく社会に関係する事柄だからです。

妊婦は、週数に関わらず、胎児の存在を否が応でも感じさせる心身の変化に日々付き合い、その成長に期待と不安を寄せながら、新たな家族を迎え入れる準備を始めます。その過程で検査を受けるか否かを検討するとき、妊婦は胎児との関係だけでなく、パートナーや子ども、家族との人間関係の中で、社会の成員として検査や妊娠継続に関わる決定をすることになります。

ですから私たちは、この個人的であると同時に社会的な決定を行なうにあたって、遺伝カウンセリングの場で提供される情報と支援のあり方を、社会の中で検討することを可能にして頂くことを要望致します。具体的には、是非、この場で提供される情報と支援のあり方を検討する作業を一般に公開して下さい。その上で、さらに必要と思われる事柄は何か、あるいは現状に照らして不適切な点はないか、専門家だけで議論するのではなく、広く一般の人々の意見を募って頂きたく存じます。

妊婦は体内で育ちつつある胎児を産んだ後の支援を必要としています。

障害があってもなくても、子を産み育てることには往々にして予測不可能な困難が伴います。子育てとは、そうした予測不可能さを引き受けることでもあります。 障害のない子を育てることが、障害のある子を育てるのに比して楽であるように思われるとすれば、それは、産む前から育ちに関する情報が多く存在すること、また自ら求めさえすれば、共に子育てをする仲間や支援者が多く待っていることを知らされており、また、実際に待っているからです。

子に障害のある場合にも、同様の情報、すなわち「子が育つ過程」、「育つ過程の似た子を持つ親同士の連携」、「社会に準備されている子育て支援」についての情報を、産まれる前から、具体的には出生前検査を提供する前と後に継続的に提供して下さい。そのために必要であれば、障害者団体、親の会、福祉や教育分野とも積極的に連携をして頂きたく存じます。そして産むことを決めた妊婦と共に子の出生を楽しみに待ち、産まれた後の支援へとつなげて下さい。そうした支援があってはじめて、 妊婦は「安心」することができます。

妊婦とこれから産むかもしれない女性の声を聞いて下さい。

グ ローバル化の時代にあって、「新しい出生前検査」の我が国への導入は不可避であると言われます。もしそうであるならば、この検査を、妊婦が真に必要とする支援を伴って適切に提供して頂きたい。これは、これから検査を提供しようとする医療機関だけではなく、社会全体への切実な要望です。

今後「新しい出生前検査」を提供するにあたっては、何が妊婦にとっての真の安心であり、ニーズであり、必要とする支援なのか、「それが望んだ妊娠であれば、 胎児を失うことを望む妊婦はいない」ということをまず念頭において、妊婦とこれから産むかもしれない女性の声に基づいた議論をして頂きたく存じます。私たちは、そのための協力を惜しみません。

妊婦、これから産むかもしれない女性、あるいはかつて妊婦だった女性と共に、社会の中で「新しい出生前検査」の望ましいあり方を検討頂くことを、切に要望致します。